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過労運転による事故と会社の責任

1 過労運転による責任

「過労運転」は法律で禁じられています。
 過労運転と認められれば、刑事上の責任を負うことになりますし、事故が発生すれば民事上の責任も負います。
 行政上の処分を受け、運送業の経営が立ち行かなくなることがあります。
 そこで、運送業に携わる方に知っておいて頂きたい過労運転の意味、法的責任及び対応策を解説します。

2 過労運転とは

過労運転は、道路交通法により明確に禁止されています。


道路交通法66条(過労運転等の禁止)
「何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれが
ある状態で車両等を運転してはならない。」

条文には「過労」と記載されていますが、具体的に何が「過労」にあたるのか分かりにくいです。
厚生労働省が作成している「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」いわゆる「改善基準告示」がひとつの基準になります。
改善基準告示は、トラック運転手、バス運転手及びタクシー運転手の労働時間等の改善を図るために、各業界の労働時間等の基準を示したものです。
上記のうち、トラック運転手の改善基準告示では、運転手の健康を確保するために、長時間労働を以下のとおり制限しています。

【拘束時間】

(1)1か月の拘束時間
・1か月の拘束時間は原則293時間が限度
(2)1日の拘束時間と休息期間
・1日の拘束時間は13時間以内を基本とし、延長する場合であっても16時間が限度
・1日の休息期間は、勤務就労後、継続8時間以上
・つまり、1 日(24時間)=拘束時間(16時間以内)+休息期間( 8 時間以上)となる

【運転時間の限度】

・2日を平均した1日の運転時間は、9時間が限度
・2週間を平均した1週間あたりの運転時間は44時間が限度
・連続運転時間は4時間が限度
運転開始後4 時間以内又は4 時間経過直後に運転を中断して30分以上の休憩等を確保

【時間外労働及び休日労働】

(1)時間外労働及び休日労働
自動車運転の業務について、時間外労働及び休日労働は1 日の最大拘束時間(16時間)1箇月の拘束時間(原則293時間、労使協定があるときは320時間まで)が限度
(2)休日労働の回数
休日労働は2 週間に1 回が限度

 裁判において、上記の改善基準告示の範囲内で就労していたかが、過労運転該当性における重要なポイントになります。
 中小の物流事業者、特に長距離運送を主たる事業とする運送会社にとっては、改善基準告示を完全に遵守することが難しい状況にあることはよく知っています。
 しかし、令和6年4月からは、働き方改革における労働時間規制の適用猶予がなくなるなど、運送業界も長時間労働を抑制しなければならない時勢にあります。

3 過労運転の行政・刑事上の責任

過労運転をしてしまった場合、どのような法的責任を負うのでしょうか。
責任の主体(会社、運転手)、責任の種類に分けて解説します。

1.運転手の行政上の責任

過労運転等の違反が認められた場合の交通違反は25点です。
過労運転等違反の25点は、酒気帯び運転0.25以上、妨害運転(交通の危険のおそれ)と同じ点数です。
過労運転が重大な違法行為であることがおわかりいただけると思います。
25点の場合、前歴がない場合でも、免許が取消しされますので(2年間)、過労運転となれば免許取り消しは避けられません。

2.運転手の刑事上の責任

過労運転等の禁止(道路交通法66条1項、117条の2の2、1項、7号)に違反した場合、3年以上の懲役または50万円以下の罰金の刑罰を受ける可能性があります。

(過労運転等の禁止)
第六十六条 
「何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」

3.会社側の刑事上の責任

道路交通法75条4号により、使用者が、運転手が過労運転するように命じ、または、容認したときは、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(道路交通法117条の2、10号)。
会社の運行責任者および配車割当担当者が、トレーラー運転手の過労運転を容認したことにより道路交通法違反に問われ、それぞれ懲役1年(執行猶予5年)に処せられた事例があります(津地方裁判所平成15年5月14日)。

 (自動車の使用者の義務等)
第七十五条 
「自動車(重被牽けん引車を含む。以下この条、次条第一項及び第七十五条の二の二第二項において同じ。)の使用者(安全運転管理者等その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む。次項において「使用者等」という。)は、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認してはならない。」

「第六十六条の規定に違反して自動車を運転すること。」
第百十七条の二の二
「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

「第七十五条(自動車の使用者の義務等)第一項第四号の規定に違反した者(前条第五号に該当する者を除く。)」

4 過労運転によって事故が発生した場合の責任

 1.運転手の責任

・刑事上の責任
道路交通法66条の過労運転違反の罪に問われるだけでなく、自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させたとして、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(自動車運転過失致死傷罪)。

・民事上の責任
運転手は、被害者から損害賠償請求を受けます。
死亡事故や重篤な後遺障害が残る重大事故の場合には、損害額が1億円程度となることも少なくありません。
自動車保険に加入していることが一般であり、保険によって賄われることが多いですが、交渉のために、弁護士との打ち合わせも必要ですし、訴訟になれば、証人尋問のために裁判所に出廷する必要があり、その負担は小さくありません。

2.運送会社側の民事上の責任

運転手が事故を起こせば、会社は、使用者責任または運行供用者責任(自動車の運用を支配して利益を得ている立場)に基づき被害者に対する損害賠償義務を負います。過労運転による事故の場合も同様です。
運転手が過労運転により、過労死したり心身の故障を来せば、運転手(またはその相続人)から、雇用契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)を理由に損害賠償請求を受けることがあります。

3.運送会社の役員の民事上の責任

さらに、運送会社の役員個人が責任を負うことがあります。
例えば、過労運転によって運転手が過労死した場合、会社とは別に、運転手の相続人から、役員個人が、安全配慮義務違反の懈怠につき悪意・重過失があったとして、損害賠償請求を受けることがあります(会社法429条1項)。

5 過労運転と事故を予防するために

過労運転と過労運転による事故を予防するために、改善基準告示を守ることが必要です。
運送業は、働き方改革の労働時間規制が適用猶予されていますが、2024年4月から年間960時間の罰則付き上限規制が適用されます。
これにあわせて、改善基準告示も改正されることになっています。
上記の適用猶予の終了や告示改正にあわせて、2024年以降は運送業に対する労働時間規制の取り締まりが厳しくなると予想されます。
運送作業日報やデジタルタコグラフの記録を注視して、改善基準告示に違反する運転があれば運行を見直していきましょう。
過労運転または過労運転容認について捜査を受けたり、過労運転による事故が発生した場合には、当事務所にお問合せください。刑事及び民事上の法的責任を軽減し、会社の危機を回避すべく迅速に対応します。


この記事を書いた人

松坂典洋
弁護士・社会保険労務士
運送業に特化する福岡の弁護士・社会保険労務士です。
20代前半、京都で人力車を引いていました。
就労実態が労基法や就業規則と整合しないことから、トラブルを抱えた運送業者様から多くの残業代請求事件等の依頼を受けています。
人力車のお客様に対するサービス同様にクライアントにも満足して頂けるように誠実に対応するのがモットーです。
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