指導しても改善しない場合の対処法(懲戒処分、退職勧奨、解雇のポイント)
ここまで指導とパワハラの境界線について説明し、パワハラ防止法に基づく対策を解説しました。
それでは、指導しても改善しない従業員についてはどうしたらよいのでしょうか。
会社として、これ以上雇用契約を継続できないとなれば、雇用契約を終了させることを考えるわけですが、その方法は複数あります。
会社と労働者は雇用契約を締結します。
労働者から会社を辞める場合「辞職」です。
会社からの退職勧奨に従業員が応じて退職する場合には「合意解約」です。
期間の定めるのある雇用契約、いわゆる契約社員について、期間満了により契約を終了させる場合があります。いわゆる「雇止め」です。
解雇事由があることを理由に解雇する場合もあります。解雇には普通解雇と懲戒解雇があります。
退職勧奨
指導しても改善しない場合には、退職勧奨をせざるを得ないでしょう。
退職勧奨は解雇と異なり、従業員が退職に同意するため、解雇よりも紛争となるリスクは低いです。
しかし、退職勧奨に応じた労働者が、後に弁護士に相談して、無効を主張するケースは少なくありません。一度会社との関係性が切れると、社長や従業員に対する遠慮がなくなり、生活を維持するために労働者は必死になります。
しかし、その場合も、退職勧奨に注意する必要があります。上記①ないし⑦の点に特に注意しましょう。
具体的な事案では、必ず解雇等の問題に精通した弁護士や社会保険労務士に相談してから行うべきです。
解雇
指導しても改善が見られず、退職勧奨にも応じない場合や重大な非違行為が認められる場合には解雇を検討することになります。
解雇には普通解雇と懲戒解雇があります。後者が非違行為を理由とするものだと理解してもらえれば結構です。
いずれせよ、対象となる事実を具体的に特定して、その裏付け、つまり証拠を確保する必要があります。
すべての出発点は事実にあります。この点が曖昧で、何となく「能力不足」「パワハラ体質」だという理由では解雇はできません。
そして、その行為を解雇とする就業規則が必要です。
さらに、解雇するには、対象者に弁明の機会を保障しなければなりません。言い訳をする機会を与えなければならないのです。
こうした手続を経て、最終的に処分の種類を決めるわけですが、就業規則、ガイドライン、同種事案の前例と比較するなどして、相当な内容でなければなりません。
退職勧奨や解雇を争われる場合
内容証明郵便→地位確認等請求仮処分→労働審判→訴訟
解雇された従業員は、生活の糧を失うわけですし、会社との関係も切れるため、必死になります。弁護士に相談して、解雇の有効性を争うというケースは非常に多いです。
代理人弁護士から内容証明郵便が飛んできます。解雇の問題は交渉で解決するケースは少なく、間もなく、労働者側が仮処分(1か月から数か月で判断がでます。)、労働審判、訴訟等の法的手続きに出ます。
解雇の有効性を証明するのは非常に労力を要します。こうした裁判も想定して、事実関係と証拠を整理しておく必要があります。
裁判手続により解雇が無効となれば、従業員は職場に復帰することになります。会社側が復帰を拒否することはできますが、賃金の支払義務は残ります。
中小企業において解雇の有効性が争われる事案では、従業員も実際に会社に戻って仕事をするのは現実的ではなく、会社側も敗訴判決を受け入れるのは難しいため、会社が従業員に対し解決金を支払って退職を確認するという形式で和解することが多いです。
解決金の金額は、どの程度解雇が有効・無効であるかによって異なりますが、解雇が無効である可能性が高い事案では、その程度に応じて半年から1年半程度分の賃金を解決金とする事例が多いです。
解雇の有効性を従業員が争うケースでは、長時間労働が常態化している運送業界では特に、併せて残業代が請求される事案が多いので注意しましょう。また、パワハラ・セクハラの慰謝料請求が併せて請求されることも少なくありません。
残業代請求やパワハラ慰謝料請求のリスクの高い運送業では、特に解雇手続きを慎重に進める必要があります。
逆に、パワハラ防止法に基づく防止策を実行しており、想定外の残業代の請求を受けるリスクがないという会社であれば、リスクをとって退職勧奨・解雇をするという判断ができます。
したがって、日頃から、パワハラ防止策を実行し、想定外の残業代請求を受けないよう就業規則改訂いと労働時間管理を実践する必要があります。
問題社員リスクの時系列分析と対処法
問題社員のリスクの時系列分析
問題社員の発生を防止するために、日頃から従業員を適切に指導する必要がありますが、そうした指導以外に問題社員の発生を防止する方法があります。
時系列でそのポイントを整理したのが上記の表です。
まず、採用時に適切な募集要項に基づき募集し、職務内容と賃金などについて丁寧に説明する必要があります。この点に齟齬があると従業員の不満が募り、トラブルとなります。
また、就業規則が作成されていなかったり、その内容に問題があれば、懲戒処分を命じることもできません。
そして、在職中に評定と指導をおろそかにすることが、問題行動を招くことになります。また、適切なタイミングで懲戒処分を命じていなければ、問題行動を増長させてしまいますし、懲戒処分を命じるタイミングを逸してしまいます。
さらに、退職・解雇時の対応を誤ると退職勧奨や有効性を争われることになります。
リスクの対処法
基本的には日頃の評定と指導、適切なタイミングでの懲戒処分により、問題社員に行動を改めさせることになりますが、もう一つの手段として、採用時に期間の定めのある雇用契約を締結する方法もあります。
運転手は、期間の定めの有無よりも、賃金、労働時間や休日を重視して勤務先を選択する傾向が強いというのが多くの運送業の経営者の意見です。
問題行動があれば、期間満了時に問題行動等を理由に契約更新を拒否して契約を終了させることができます。
違法な更新拒否(雇止め)であるとして争われることもありますが、正社員の解雇よりもそのリスクは低いです。
また、契約社員として採用した後に問題がなければ、正社員として採用する場合に、キャリアアップ助成金を利用できる場合があります。こうした助成金の利用も含めて、賃金を上げてできるだけ優秀な方を採用することも検討すべきでしょう。
上記1のとおり、運送業では長時間労働が常態化している事業所が多く、パワハラが問題となると、併せて残業代請求がなされる事例が多いです。その場合、請求される金額は1000万円を超えることになります。
また、長時間労働によりパワハラ・セクハラによる被害が深刻化し、うつ病を発症し、自死被害が発生する恐れがあることに注意しましょう。
上記2のとおり、指導のつもりで行っていることがパワハラに当たるケースが少なくありません。パワハラの境界線をよく理解して、日頃の指導にあたりましょう。
上記3とおり、会社としては改正パワハラ防止法に基づき防止策を実施し、日頃の指導を記録に残す必要があります。そして、問題が発生した場合には、適切な手続きに従って対応する必要があります。
上記3については、日頃から弁護士に相談できる体制を築き、問題発生時も逐一相談し助言を受ける必要があります。
パワハラ・セクハラにお悩みの運送業の経営者の方はお気軽にご相談ください。
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