工場での長時間労働で書類送検
うまい棒を製造する会社と同社代表取締役が長時間労働で書類送検されたとの報道がありました。(2022年8月22日 yahooニュース 朝日新聞デジタル)
工場の従業員らに対し、36協定で定められた上限を超えて就労させ、1か月あたりの時間外労働は100時間を超える場合があり、複数月の平均で80時間を超過していたとのこと。
働き方改革により、臨時的な特別の事情がある場合でも、①年720時間以内、②複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、③月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできないのです。
書類送検された会社は、うまい棒を安価で販売し続けるために、人手不足のなか、相当無理をしていたのでしょう。
運送業も残業時間上限規制違反による書類送検に注意すべき
運送業でも労働時間の上限規制に違反するケースあり
安い価格を維持する目的と人手不足で長時間労働をせざる得ない食品製造業界の置かれた状況は、運送業界と似ています。
運送会社においても、実態として長時間の時間外労働が常態化して、過労死ラインとされる80時間を超える残業も珍しくなく、100時間を超えるケースも少なくないです。
運送業は、働き方改革の労働時間上限規制の適用が2024年まで猶予されていますが、同年4月からは上限規制が適用(運送業は上限960時間)されます。
したがって、運送業界にとっても今回の報道は他人事ではありません。
労働基準法違反は常に書類送検されるのか
労働時間の上限規制に違反した場合、直ちに労働基準監督署から書類送検、つまり、刑事事件として立件されてしまうのでしょうか。
よほど悪質な事案でない限り、労働基準監督署が、直ちに書類送検することはないというのが経験上感じるところです。
うまい棒の製造会社も、数年前から長時間の時間外労働について労働基準監督署から指導を受けていたが、是正できなかったという経緯があるようです。
労働基準法に違反する事態は避けなければなりませんが、労働基準監督署から指導された場合には、特に違反は許されません。書類送検のリスクが高まります。
書類送検後の検察官の対応
書類送検された後はどうなるのでしょうか。
検察官が労働基準監督署から引き継いで捜査を続け、最終的に起訴するか(不起訴(起訴猶予)もあり得ます)、起訴する場合に懲役刑を求めて公判請求(皆さんがイメージする法廷での裁判)するか、罰金刑を求めて略式請求するかを決めます。
時間外・休日労働の上限を単月100時間未満、2~6か月平均で80時間以内と定める労働基準法36条6項に違反した場合、同法119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
起訴が会社に及ぼす影響
事案の詳細は不明ですが、起訴されるとしても罰金に留まることが多いでしょう。会社の規模からすれば、数十万円の罰金の支払義務は財務に影響するものではありません。
しかし、今回報道されたことで、従業員の募集に相当な悪影響がありますし、労働基準法違反により有罪判決を受けたことにより、外国人雇用に影響するなど、事業の存続に関わります。
したがって、労働基準法違反で書類送検されるという事態は、事業の存続にかかわる事態となると認識した上で、労働基準監督署から指導を受けた場合には、すみやかに対応し、万が一、労働基準監督署から捜査を受けるような事態となった場合には、直ちに、労働事件に精通した弁護士に依頼して、再発防止策の策定などを含む弁護活動を行い、不起訴処分(起訴猶予)を目指して、ソフトランディイングさせる必要があります。
労働基準法 関連条項の抜粋
36条(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
⑥ 使用者は、第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、一日について労働時間を延長して労働させた時間 二時間を超えないこと。
二 一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間 百時間未満であること。
三 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 八十時間を超えないこと。
119条
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第六項、第三十七条、第三十九条(第七項を除く。)、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者
二 第三十三条第二項、第九十六条の二第二項又は第九十六条の三第一項の規定による命令に違反した者
三 第四十条の規定に基づいて発する厚生労働省令に違反した者
四 第七十条の規定に基づいて発する厚生労働省令(第六十二条又は第六十四条の三の規定に係る部分に限る。)に違反した者