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運送会社がドライバーから残業代請求を受けた場合の対策を弁護士が解説

目次

運送業界で起こりやすい残業代に関する問題と対策の必要性

解説動画はこちら↑

就業規則が実態と整合していないパターン

  • 設立当時にとりあえず作成した就業規則を現在も使用している場合、歩合制が反映されていないなど実態と整合しないケース
  • 歩合給の基礎の計算方法(例えば、売上から高速代を控除すること)などが就業規則に明記されていないケース
  • 完全歩合制を導入しながら、就業規則には、基本給を支払う旨記載されているケース

上記のような就業規則が実態と整合していないケースから、多額の残業代の請求を受けるケースを多く経験しています。

固定残業・定額残業制を採用している、歩合給・運行手当などに残業代は含まれているなどとして、残業代(割増賃金)を支払っていないパターン

固定残業制・定額残業制を就業規則に記載して導入している運送会社も少なくありません。しかし、最高裁判例が求める条件を満たさない運用をしているケースが少なくありません。

その場合、残業代の支払いが認められないだけでなく、固定残業・定額残業代が割増賃金の基礎に含まれて高額の残業代の請求を受ける可能性があります。

歩合制を理由に残業代を支払っていない運送会社も少なくありませんが、歩合制であっても、時間外労働に対する対価を支払う必要があります。

運行手当、特別手当といった名称の各種手当に残業代が含まれていると説明する運送会社も多いですが、残業代請求を受けるリスクの高い方法です。

労働時間の管理をしていないパターン

運転手が出発する時刻を管理していないケースが多いです。寝坊を防ぐために運転手が前夜に出発することを許している場合、出発した時間から目的地到着後の仮眠時間を含めて労働時間として残業代請求されるケースが非常に多いです。

また、配送先等から帰社するまでの時間を管理していないケースも多いです。

労働者側が弁護士に依頼して残業代請求する場合には、タコグラフの記録開始から終了までの間すべてが労働時間に該当すると主張するのが一般です。出勤時間や退勤時間を会社側が指導管理しなければ、不必要に労働時間が伸びてしまいます。

2024年4月以降の残業時間の上限規制や改善基準告示の改正に対応するためにも、出勤時間、退勤時間及び休憩時間は会社が指導管理する必要があります。

残業代問題を放置するリスク

上記の3つのパターンのいずれかに該当される運送会社は、非常に残業代請求を受けるリスクが高いです。リスクを放置すれば、一人あたり、数百万円から1000万円を超えるの残業代請求を受ける可能性があります。

まずは残業代請求のリスクを調査すべき

自社の賃金制度のリスクについて、運送業の労働問題に精通している弁護士に相談していない運送会社の経営者は、是非、一度相談してください。

当事務所では、残業代請求リスクについて簡易診断を行っています。就業規則と給与明細(または賃金台帳)を拝見して、残業代請求を受けるリスクがどの程度高いか、その金額の見込みはどの程度か、どのような対策が必要かを助言させて頂いています。

上記のケースに該当する方は、是非一度ご相談ください。

簡易診断の結果、対策が必要であれば、新賃金制度のシミュレーションに基づく就業規則改訂から従業員対応までトータルにサポートさせて頂きます。

残業代請求が増加・高額化する理由

残業代請求が増加・高額がする理由の解説動画はこちら↑

残業代請求の時効期間が2年から5年(当分の間3年)に

残業代などの未払い賃金請求権は、これまで2年間で時効により消滅しました。

しかし、労働基準法が改正され、時効期間は5年(当分の間3年)となりました。

2020年4月1日以降に支払われる賃金については、時効期間が3年となります。

時効が2年から3年に延長されたことで、残業代の金額は、単純計算で改正前の1.5倍になるわけです。

請求金額が高額になることで、残業代請求を決意する従業員が増加する可能性があります。

当分の間3年とされていますが、いずれ5年になります。5年となれば、残業代は相当に高額になり、請求を受けるリスクはさらに高まります。

1か月60時間超の割増率が25%割増(50%に!)

2023年4月1日以降、中小企業も、1か月60時間を超える法定時間外労働(残業)に対しては、使用者は 50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

深夜(22:00~5:00)の時間帯に1か月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、 深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上となります。

月100時間程度残業するドライバ―の場合、1か月2万円前後残業代が増額することでしょう。

こうした法改正に対応しないだけで、ドライバ―が弁護士に相談して、未払残業代請求するケースが増加すると考えられます。

労働者側弁護士による情報提供、SNSによる拡散、運転手間での情報交換

時効期間の延長や割増率の変更などにより未払い残業代がある場合、金額が高額になるといった情報は、ネット上に溢れています。

高額の残業代請求を受けたドライバーの話は、ドライバー間でSNS等を通じて共有され、未払い残業代請求を決意するドライバーが増えると考えられます。

同じ会社でドライバーの労働条件が共通化していることが多いです。

残業代請求を弁護士に委任したドライバーは、弁護士から他のドライバーも請求する意思はないのか問われ、結果として、同じ会社の複数のドライバーから残業代請求されるケースが増加しています。

残業代請求されたらどうなるのか(請求後の手続きの流れ)

「残業代請求されたらどうなるのか(請求後の手続きの流れ)」の解説動画はこちら↑

従業員からの請求・資料の開示要求

在職中の従業員本人から残業代を請求されるケースもありますが、ほとんどのケースでは、従業員から依頼を受けた弁護士が代理人として、内容証明郵便で未払い残業代の支払いを求めてきます。

弁護士が運送業のドライバー(労働者側)の代理人として残業代を請求する場合、正確な残業代を計算するための労働時間に関する資料が手元にないことから、金額を具体的に特定せず、時効が完成していない3年間の残業代を請求するとだけ記載します。

その上で、会社に対し、正確な残業代を算出するために、労働時間を確認することができる資料の開示を求めます。

一般的にはタイムカードですが、運送業においては、タコグラフ、運送作業日報、 賃金台帳(歩合制の場合は売上が記載された請求書等)等の資料も開示するように求められます。

タコグラフ、運送作業日報、タイムカード、賃金台帳、就業規則等の開示

会社において、資料を開示すると、従業員側が残業時間を計算して、その結果に基づく残業代を請求してきます。

資料の開示から数週間後から1か月程度要することが多いです。

中長距離の貨物トラックのドライバーの残業代請求では、1000万円前後の請求となることが多いです。

正確な残業代を計算するための作業は時間を要しますので、請求を受けた会社側でも残業代の計算を進めます。

会社側の主張に基づく交渉

運送業のドライバーの残業代請求事件では、会社側と労働者側で労働時間が大きく異なります。

また、割増賃金の基礎(残業代を計算する際の単価)について争いがあることがほとんどです。

さらに、固定残業・定額残業制、手当等による残業代支払いについても争いになります。

加えて、会社が歩合制・出来高払い制を採用している場合には、割増率も大きな争点となります。

したがって、会社側としては、各争点について反論して、会社側が考える残業代の額を計算して回答する必要があります。

会社側の反論

会社側は、上記の各争点について、それぞれ反論しつつ交渉する必要があります。

請求を無視することは絶対に避けるべきです。

次項では仮に反論せずに、請求を無視した場合にどうなるかを簡単に説明します。

未払い残業代を請求された会社がやってはいけない対応

未払い残業代を請求された会社がやってはいけない対応の解説動画はこちら↑

従業員からの残業代請求を無視する

従業員から残業代を支払うよう求められた場合に無視することは絶対に避けなければなりません。

従業員が残業代を主張する理由や計算方法を確認した上で、弁護士に相談して残業代を支払う必要があるか否か慎重に検討して対応を決めるべきです。

会社が残業代の請求を無視すれば、その従業員は、労働基準監督署や弁護士に相談するでしょう。

その結果、従業員全体について残業代を支払うよう指導されたり、労働者側の弁護士の見解に従って、より高額な残業代請求がなされる恐れがあります。 また会社側の対応に幻滅して退職するケースも少なくありません。

経営者が一定額の残業代を支払わなければならないことは理解しているが、会社の経営上とてもそのような余裕がないというケースもあります。 そうした場合には事情を丁寧に説明して、和解を目指すべきです。

決して従業員の残業代の請求や疑問を無視してはいけません。

弁護士からの内容証明郵便を無視する

従業員からの残業代請求を無視すべきではないのと同様に、弁護士からの残業代を請求する内容証明郵便を無視するべきではありません。

そんなことで弁護士が残業代請求を諦めることはありません。

通常、弁護士が従業員の代理人として残業代を請求する場合、計算する資料が手元にないことから、金額を具体的に特定せず、時効が完成していない3年分の残業代を請求する旨記載している事がほとんどです。

その際、正確な残業代を算出するために労働時間を確認することができる資料、一般的にはタイムカードですが、タコグラフ、運送作業日報、 賃金台帳等の資料を開示するように求められます。

残業代の請求を無視するだけでなく、このような資料の開示請求を一切無視することは絶対に避けるべきです。

なぜなら、そのような対応をすると、労働者側の弁護士は、裁判所に、このままではタコグラフや運送作業日報など重要な証拠が隠滅または改ざんされる恐れがあるとして、証拠保全の申立をします。

運送業に対する残業代請求事件において、内容証明郵便を送っても会社側が資料の開示請求を無視しているとなれば、裁判所は証拠保全の申立を認めます。

そうすると、裁判官、裁判所書記官、労働者側の代理人は何の連絡もなく会社の事務所に行ってきて、タコグラフ、運送作業日報等の資料を開示するように求め、これらの資料を写真撮影またはコピーします。

証拠保全により通常の対応していれば開示する必要がなかった資料まで開示する結果となり、不利な証拠が労働者側に渡ってしまうケースがあります。また、裁判所がいきなり事務所にやってくれば、他の従業員に対する影響も大きいです。

タコグラフと運送作業日報等の記録・保存のルールやポイントについては、運送業のタコグラフ、日報等の作成・保管義務 において簡単に解説しています。

労働審判の申立書を無視する(労働審判)

労働者側が残業代請求の労働審判を申し立てた場合に、会社側が何の対応もせず指定された労働審判期日にも出廷しない場合どうなるでしょうか。

この場合、申立人(労働者側)の主張・立証が相当であると認められれば、裁判所は、申立人の意向を踏まえて、その主張に沿った労働審判、つまり、残業代の支払いを命じます。

上記の労働審判に対し、2週間以内に異議を述べれば、通常の訴訟に移行しますが、異議を述べなければ、労働審判が確定し、判決と同じ法的な意味を持つことになります。つまり、労働者側は、会社の預金や売掛金を差押えできる状態になるのです。

したがって、労働審判を無視するのは絶対に避けるべきです。

裁判所からの訴状を無視する(訴訟)

裁判所からの訴状を無視し、答弁書も提出せずに裁判期日にも出廷しないということは絶対に避けるべきです。

被告である会社側が答弁書の提出せずに裁判期日を欠席すると、原告である労働者側の言い分を会社側が認めたことになり、高額の残業代の支払いを命じる判決が言い渡されます。

したがって、裁判所から送付された訴状を無視するのは絶対に避けるべきです。

判決で命令された残業代を支払わない

判決内容に不服があれば控訴することになります。

控訴をすることなく判決が確定しても、会社側が残業代支払いを無視すれば、労働者側は預金や売掛金等の会社の財産を差し押さえしようとします。

従業員であれば会社がどの銀行と取引をしているかは知っていると考えられます。

具体的な支店や口座番号まで特定していなくても、口座が開設されている可能性のある銀行が明らかになっていれば、弁護士法や民事執行法に基づき、口座の有無や残高等を確認し、差押えしてきます。

裁判所から差し押さえ通知を受けた取引銀行は、貸付金の期限の利益喪失事由が発生したとして、貸金の回収に動きます。そうすると、会社は事業の継続が困難になってしまいます。

また、預金と同様に取引先についても従業員であれば把握しているのが通常でしょう。特にドライバーはどの会社から運送を受託しているかを知っています。

労働者側は主たる取引先に対する売掛金債権の差し押さえを裁判所に申し立てると、裁判所は取引先に差し押さえを通知します。

差し押さえの通知を受けた取引先は売掛金の支払いをすることができません。それだけでなく、信用不安から、今後の取引も停止するでしょう。そうすると、直近の資金繰りだけでなく今後の事業の見通しもつかなくなります。

以上のとおり、判決を無視すれば強制執行を受け事業が立ち行かなくなります。

判決を命じられた残業代を支払うことができない場合には、判決後に労働者側に事情を説明して分割払いの和解を目指すべきです。分割払いの見込みもない場合や労働者側との交渉が決裂する場合には、債務整理も検討しなければなりません。

弁護士に相談せずに和解する

残業代請求を受けた際に弁護士に相談せずに和解することは絶対に避けるべきです。

会社側に反論できる余地がなく弁護士に依頼する資金にも窮するような場合には、弁護士に依頼はせずに自分たちで交渉するケースはあります。

しかし、少なくとも運送業の労働問題に精通した弁護士に必ず相談だけはしましょう。

労働者側の主張する残業代の請求金額(労働時間)は妥当なのか、割増賃金の計算方法は妥当なのか、会社側はどのような反応ができるのか、和解する際にはどのような条項を定めれば良いのかなど確認すべきです。

弁護士に代理人としての交渉を依頼しない場合でも、顧問弁護士やスポットで依頼した弁護士と打合せしつつ、和解交渉するべきです。

残業代の計算方法

「残業代の計算方法」の解説動画はこちら↑

残業代を請求された場合、会社側も、あらためて残業代を計算します。その計算方法の概要は次のとおりです。

労働時間

まず、実労働時間を特定します。

残業代請求を受けるまで会社内が認めていた労働時間ではなく、会社側の主張として、裁判手続において通用し得る考え方に基づき労働時間を特定します。

当事務所が依頼を受けた場合、裁判手続でも使用する専用の残業代計算用のExcelシートを使用して、請求された期間中の始業時刻、終業時刻、休憩時間(深夜帯は区別)を入力します。

上記の入力作業の際には、タコグラフまたは運送作業日報の記録を基礎にすることが多いです。

つまり、タコグラフに記録された車両の稼働時間、運送作業日報に記載された始業・終業時刻、休憩時間等に基づいて、始業・終業時刻及び休憩時間を認定し、エクセルシートに記録するわけです。

休憩時間

拘束時間のうち、休憩時間は労働時間に含まれません。

運送業の運転手は一般的に拘束時間が長いですが、拘束時間から休憩時間を除いた時間が労働時間となります。

休憩時間は、残業代請求事件で最も激しく争われる争点のひとつです。

休憩時間とは、使用者の作業上の指揮監督から離脱し(労働から解放され)、労働者が自由に利用できる時間であると言われています

会社側の指揮監督下から離れた時間、例えば、サービスエリアなどで30分から1時間程度トラックから離れて食事をしている時間などが典型的です。こうした時間は、休憩時間として、実労働時間に含めません。

会社側として労働時間を計算する場合(休憩時間を特定する場合)、運送作業日報に運転手自らが休憩と記録した時間、デジタルタコグラフに休憩と記録している時間を休憩時間として扱うことが多いです。

しかし、運転手が運送作業日報をいい加減に作成、あるいは、後の残業代請求に備えて敢えて休憩時間を記録しない場合があります。こうした場合は、運行実績とタコグラフの記録から読み取れる当日の具体的な運行状況に基づき休憩時間を認定して計算することになります。

デジタルタコグラフに記録されている休憩時間も、運転手が休憩時間のボタンを押さずに、荷役作業として扱っていたりして、実態を反映していない場合があります。そのような場合には、実態に基づいて休憩時間を認定して計算することになります。

仮眠時間

休憩の態様のひとつとして、仮眠時間があります。会社側は、中長距離運送において、目的地に早めに到着して仮眠している時間や、長距離移動中の睡眠時間があることから、こうした仮眠時間は労働時間に含まれないと主張しますが、労働者側は荷待ち時間(待機時間)であり労働時間に含まれるなどと反論し、激しく争います。

仮眠の労働時間該当性が争点となった共同運輸事件(大阪地裁平成9年12月24日判決・労働判例730号14頁)は、以下のとおり、深夜勤務時間について具体的に特定されていないとして、仮眠時間の労働時間性を否定しました。

「原告らのタイムカード記載の出勤時刻を前提に算定された深夜労働時間の中には、右のように労働者の都合により必要以上に早くから業務を開始し、余った時間で目的地に到達してから取った仮眠時間が一定程度含まれているというべきである。したがって、本件において、タイムカードに打刻された出勤時刻及び退勤時刻は、従業員の就労開始時刻及び同、了時刻を正確に反映しているということはできない」・・・「原告らが右認定時間を超えて深夜勤務をした労働日及び当該労働日における深夜勤務時間数については、これが具体的に特定されていないのであるから、これを算定することができない」

仮眠時間の労働時間該当性について会社側に厳しい判断を示した裁判例も存在しますが、仮眠時間の労働時間該当性については一律に判断することはできません。

結局、運転手が時間的場所的に労働から解放されていたことを個別具体的に主張立証する必要があります。

割増賃金の基礎

割増賃金の基礎とは

割増賃金の基礎となるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」です。

例えば、月給制の場合、各種手当も含めた月給を、1か月の所定労働時間で割って、1時間当たりの賃金額を算出します。

しかし、実際には、手当を含めずに、基本給を基礎に1時間あたりの賃金額を計算している運送会社が非常に多いです。

原則として、手当を含めて1時間あたりの賃金額を算出しなければならないと考えておいた方がいいでしょう。

割増賃金の基礎から除外できる手当

ただし、以下の①~⑦は、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどにより、基礎となる賃金から除外することができるとされています(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)。

つまり、残業代を計算する際の割増賃金の基礎に含める必要はありません。

 ①家族手当

 ②通動手当

 ③別居手当

 ④子女教育手当

 ⑤住宅手当

 ⑥臨時に支払われた賃金

 ⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

家族手当

上記①の割増賃金の基礎から除外できる家族手当とは、扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当です。

除外できる例:扶養家族のある労働者に対し、家族の人数に応じて支給するもの

(扶養義務のある家族1人につき、1か月当たり配偶者1万円、その他の家族5千円を支給する場合。)

除外できない例:扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの

(扶養家族の人数に関係なく、一律1か月1万5千円を支給する場合。)

通勤手当

上記②の割増賃金の基礎から除外できる通勤手当とは、通動距離または通動に要する実際費用に応じて算定される手当をいいます。

したがって、通勤に要した費用に応じて支給するもの((例) 6か月定期券の金額に応じた費用を支給する場合。)は、割増賃金の基礎に含める必要はありません。

しかし、通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給するもの((例)実際の通勤距離にかかわらず1日300円を支給する場合。)については、割増賃金の基礎に含めなくてはなりません。

こうした通勤手当を支給されいてる中小企業は非常に多く、残業代請求事件で問題になることが多いです。

住宅手当

上記⑤の割増賃金の基礎から除外できる住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいます。

具体的は、住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するものは割増賃金の基礎に含める必要はありません。

(賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定割合を支給する場合。)

しかし、住宅の形態ごとに一律に定額で支給する住宅手当は、割増賃金の基礎から除外することができません。

(賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給する場合。)

このように、原則として手当も割増賃金の基礎に含めなければなりませんが、手当を含めないで割増賃金(残業代)を計算している事業所が多いです。残業代請求また、割増賃金から除外できる住宅手当、通勤手当、家族手当だと考えていも、定額で支給している場合などには、除外できない場合がありますので、この点も注意しましょう。

残業代(割増賃金額)の計算方法

基本的な計算方法

残業代(割増賃金額)=

1時間あたりの賃金額×(時間外労働、休日労働または深夜労働を行わせた時間数)×割増賃金率(1.25~)

歩合制・出来高払い制の場合

歩合給・出来高払い給部分の残業代(割増賃金額)の計算方法

歩合給・出来高払い給部分の残業代(割増賃金額)=

歩合給・出来高払い給の合計額 ÷ 総労働時間 × (時間外労働、休日労働または深夜労働を行わせた時間)×割増賃金率(0.25~)

歩合給・出来高払い給部分に対応した残業代は計算方法が異なります。特に割増率の「1」の部分が含まれないことから、残業代は高額になりません。

歩合給・出来高払い給を採用している会社が残業代請求を受けた場合には、残業代の計算方法(特に割増率)を間違わないようにする必要があります。

未払い残業代請求を受けた場合の会社側の反論

未払い残業代請求を受けた運送会社として考えられる反論は、以下のとおりです。

「未払い残業代請求を受けた場合の会社側の反論」はこちら↑

基本的な対応

従業員の残業代請求の根拠の分析

まずドライバー(労働者)側が計算した残業代の計算方法・根拠を分析する必要があります。

経験上、次のようなパターンが多いです。

A:タコグラフにトラックの稼働が記録されている時間はすべて労働時間、休憩時間はなし

 上記の亜流として、トラックの稼働が記録されている時間の前後に、乗車前の準備、洗車、運送作業日報の作成、その他の作業があったとして、労働時間を追加するケースもあります。

B:運送作業日報に記載された始業時刻から終業時刻はすべて労働時間、休憩時間はなし

C:運転手のメモに基づき始業時刻と終業時刻を特定し、その間は労働時間、休憩時間はなし

始業時刻と終業時刻はについては、会社が直行・直帰を認めているケース、トラックが稼働する前後に、積卸作業、洗車、その他の作業を要するケースなど、タコグラフで確認できない時間について争いになります。

会社側の労働時間の計算(実労働時間はもっと短い)

運送作業日報やタコグラフの記録に基づき始業時刻・終業時刻を特定して労働時間を計算する必要があります。

労働時間とは

労働時間について、通説・行政解釈では、「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」と定義されています。

労基法上の労働時間については、最高裁が次のとおり判示しています。

労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。(三菱重工長崎造船所事件 最高裁平成12年3月9日判決)

そして、業務のための準備行為についても、最高裁は、次のとおり、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できる場合には、労働時間に該当するとしています。

労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当する。(三菱重工長崎造船所事件 最高裁平成12年3月9日判決)

※ 三菱重工長崎造船事件 最高裁平成12年3月9日判決については、「作業服等に着替えるための時間は労働時間? 労働時間とは」において、わかり易く解説しています。

つまり、使用者の指揮命令下に置かれたと評価できるかがポイントです。評価できる場合にその時間が労働時間となります。

具体的な事例における労働時間(残業時間)の認定方法等については、「裁判例から学ぶ労働時間(残業時間)の認定方法」を参考にしてください。

労働時間と考えられる時間

次の時間については、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価され、労働時間となるでしょう。

  • トラックを運転している時間(ただし、通勤時間を除く)
  • 積卸作業に従事している時間
  • 使用者の指示に従い洗車している時間

労働時間であるか争いがある時間

  • 休憩時間
  • 仮眠時間
  • 待機時間(手待ち時間)

勝手に残業したのだから労働時間ではない

オフィスワークで会社側がよくする反論のひとつです。

会社は残業を許可しておらず、勝手に会社に残っていただけで(資格試験の勉強、ネットサーフィン)、労務に従事しておらず、残業代を支払う必要がないと反論することがあります。

運送業におけるドライバ―からの残業代請求の事案では、実際にトラックを運転しているため、業務に従事していなかったと反論できるケースは少ないのではないでしょう。

事前承認制の限界

残業を上司の許可制にしている会社がありますが、運送業のドライバーについて、事前承認制を完全に導入するのは難しいのが現実です。

積卸先の順番待ちや交通渋滞などで会社への戻りが遅くなる場合に残業を認めないわけにはいきません。

しかし、出発時間については、一定程度、管理が可能です。特に深夜時間帯に早めに出発して、目的地近くで仮眠をとるドライバーは少なくありません。到着が遅延しない範囲で、出発時間を管理するべきでしょう。

実際に出発時間の管理を無視して早い時間帯に出発して対場合には、到着時間後の仮眠時間について休憩であると主張を根拠づける事情のひとつになると考えられます。

拘束時間=労働時間ではない。休憩時間がある

労働時間であるか(休憩時間であるか)が争われる時間として以下の時間があります。

  • 目的地に到着した後、積卸作業が開始されるまでの時間
  • SAなどにおいてトイレ、食事等をしている時間
  • 仮眠時間

特に目的地に到着した後、積卸作業に従事するまでの時間が休憩時間にあたるのか争われるケースが頻発しています。目的時間より早く到着して仮眠を取らせるために、運転手に深夜に出発することを認めている会社は少なくありません。

目的地到着後、予定時刻前でも頻繁に連絡を入れている会社は、特に注意が必要です。指揮監督から解放されていないとして労働時間であると認められるケースがあります。

深夜労働時間が長くなり、休憩時間がないとなると、残業代全体の金額は高額になります。

早く出発した後に仮眠を取っていたケースにおいて、仮眠時間が休憩時間として認められても、拘束時間は長くなり、改善基準告示との関係でリスクが生じるという問題もあります。

1か月単位の変形労働時間制を採用している

残業代請求を受けた運送業の経営者から、1か月単位の変形労働時間制の協定書を持参されて、これを反論として主張して欲しいと言われることがあります。

1年単位の変形労働時間制は年間スケジュールを添付した協定書を作成している中小企業は少なくありません。

しかし、1か月単位の変形労働時間制については、協定書を作成していたとしても、要件を満たして運用できている運送業は少ないという印象です。

シフト表や会社カレンダーなどで、対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要がありますが、これを実行できていない場合が多いのです。

特に中長距離の運送業においては、各日、各週の労働時間を事前に特定することが難しいのが現実でしょう。

要件を満たさない場合には、交渉や裁判で主張しても効果的ではありません。

仮に1か月単位の変形労働時間制を導入するのであれば、顧問の社労士さんとよく話し合い、形式的に協定書を作成するだけでなく、運用も適切に行いましょう。

割増率が誤っている

歩合制・出来高払い制の場合の割増率

歩合制・出来高払い制の場合には、歩合給・出来高払い給部分については、残業代の計算方法が固定給とは異なります。

割増率は、1.25等ではなく、0.25等とすることが認められています。

詳細は、出来高払制・歩合制のドライバーの時間外割増賃金(残業代)の割増率をご覧ください。

管理監督署である

管理監督者の説明

労働基準法41条は、労働時間、休憩及び休日に関する規程は一定の労働者については適用しないと定めています。

そして、同条2号には「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」と定められています。この2号に定められているのが、いわゆる管理監督者です。

つまり、「管理監督者」に該当すれば、残業代を支払う必要がないことになります。

問題は、管理監督者該当性の判断基準です。

管理監督者該当性の基準

管理監督者該当性については、①職務権限、②勤務態様、③賃金等の待遇の3つに着目して判断されます。

次の裁判例が示すとおり、裁判所は、実際の判断において「経営者との一体的な立場に」あると評価できることを求めていると言われています。

日本マクドナルド事件 東京地裁平成20年1月28日判決・労判953号10頁

ハンバーガー等をの販売を業とする会社が直営店の店長に対し、残業代を支払っていなかったことから、同店長が会社に対し未払残業代請求した事件において、東京地裁は、管理監督者の判断基準について以下のとおり判断しました。

【管理監督者に動労基準法の労働時間等に関する規程が適用されない趣旨】

「管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので」

「労働時間等に関する規定の適用を除外されても、上記の基本原則(※時間外労働に対しては残業代を支払うという原則)に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものと解される。」

【本件あてはめ】

「原告が管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、② その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきである」

「経営者との一体性」が認められることからお分かりいただけると思いますが、管理監督者に該当すると裁判所が認定するケースは、一般の方がイメージされているよりもハードルが高いのです。

運送業における注意点

管理監督者であるから残業代を支払う必要がない旨反論をすることは、一般的にはあり得ることですが、運送業の管理職はともかく、一般の運送業務に従事しているドライバーの場合には管理監督者該当性を主張することは難しいケースが多いでしょう。

管理監督者であるとして残業代を支払わないのであれば、相応の処遇をすることが必要です。

残業代は支払い済みである

年俸制

年俸制は、1年間の仕事の成果によって翌年度の賃金額を設定しようとする制度です。

労働時間(割増賃金)を問題とする必要のない管理監督者や裁量労働者に適した賃金制度と言われていますが、運送業において、ドライバーに年俸制を導入し、残業代を支払っていない会社が稀にあります。

しかし、年俸制というだけで、残業代の支払いを免れることができるわけではありません。管理監督者や裁量労働制の要件を満たしていなければいけないのです。

この点を誤解している経営者がいますので、注意が必要です。ドライバーについて、年俸制であることを理由に時間外労働(残業)の対価を支払っていない場合は、残業代請求を受けるリスクが高いです。

時間外労働についても対価を支払う賃金制度に変更する必要がありますが、こうしたケースの賃金制度の見直しは就業規則の不利益変更にあたる場合があることから、周到な準備が必要です。必ず、弁護士や社会保険労務士に相談して賃金制度の見直しを実施しましょう。

固定残業・定額残業制

割増賃金は、時間外・休日・深夜労働時間数に応じて割増率を乗じて支払う必要がありますが、労働時間数に応じるのではなく、予め定額の残業手当を定めて支給する会社(固定残業制・定額残業制など、以下こうした制度を「固定残業制」といいます。)を導入している会社が少なくありません。

運送業でも、定額の残業手当(5万円程度)と定め、残業代を一切支払わないという会社があります。しかし、ドライバーから未払残業代請求を受けるリスクが高いです。

固定残業・定額残業制を導入して、毎月一定額の残業手当を支払うことは違法ではありません。

問題は、その残業手当が何時間分の残業手当であるか不明である場合や固定残業代を超えた残業に対し超過分の残業代を支払っていないケースです。

こうした場合、裁判所は、支払済みの固定残業・定額残業も残業代の支払いと認めません。

しかも、固定残業・定額残業部分も割増賃金の基礎に含めて残業代を計算して、その支払いを命じます。

残業代として支給していたつもりの固定残業手当部分も割増賃金の基礎に含まれることで、割増賃金の基礎が高額になり、予想外の高額の残業代請求を命じられることになります。

それでは、どのような固定残業・定額残業制であれば、適法なのでしょうか。ポイントは次のとおりです。

  1. 就業規則等において、固定・定額残業代部分がそれ以外の賃金と明確に区別されていること
  2. 実際の残業時間が固定・定額残業代として定めた時間を超過する場合には、別途割増賃金を支払うこと
  3. 固定・定額残業部分の残業時間が月45時間を超えないこと

上記4については、運送業で問題になる可能性があります。

例えば、固定・定額残業を定める際に、月60時間分の残業手当を予め支払うとした場合、毎月60時間程度の残業を命じるのと同じことになってしまいます。そのような長時間労働を前提とした固定・定額残業制は違法・無効と判断される可能性があるのです。

以上のとおり、固定残業制が常に違法というわけではありませんが、導入する場合には、導入時だけでなく運用についても、弁護士や社会保険労務士に相談するべきです。

予期せぬ残業代請求されないための対策

歩合制・出来高払い制の場合、残業代を払わなくてもよいか?

歩合給・出来高払い制の場合でも時間外労働があれば、残業代を支払う必要があります。この点を勘違いして、残業代を支払っていない会社が少なくありません。

ただし、歩合制・出来高払い制の場合、時間外に労働したことにより、歩合給・出来高払い給が上がると考えられますので、割増率の計算方法が異なり、1.25~ではなく(「1」部分は不要)、0.25~を乗じれば足ります。

具体的な計算方法については、当事務所にご相談ください。

※ 「歩合給(出来高)の支給と残業代の支払」において、歩合給をもって残業代の支払としていた運送業の事例(最高裁判決)を紹介しています。。

年俸制の場合、残業代を払わなくてもよいか?

年俸を支払っているから、残業代を払わなくてもよいと考える会社があります。年俸制の場合にも残業代を支払う必要があります。

年俸に残業代を含めて契約していると主張される会社もありますが、固定残業制で説明したとおり、基本給と残業代が明確に区別されている必要があります。

年俸制の場合も、残業代を支払うか、要件を満たした固定残業制を導入すべきでしょう。

なお、年俸制において残業代を支払う必要がないと判断した裁判例がありますが、運送業のドライバーで年俸制を採用している場合に同様に判断されるとは言えないでしょう。安易に裁判例が存在するからといって、専門家に相談せずに、残業代なしの年俸制を導入することは避けましょう。

割増賃金の算定基礎は適正か?

割増賃金の基礎にも注意する必要があります。

上記で述べたとおり、住宅手当、通勤手当などの一部手当を除いて割増賃金の基礎に含めなければならいのですが、割増賃金の基礎に各種手当を含めてない運送会社が非常に多いです。

特に社歴の長い運送会社では、「運行手当」「作業手当」「手積み手当」「皆勤手当て」「洗車手当」「長距離手当」などなど、ドライバーの頑張りに報いるために様々な手当が追加されています。

こうした手当の金額が大きい場合、残業代請求を受けた場合に、各種手当が割増賃金の基礎に含まれて、想定外に、未払残業手当が高額になる可能性があります。

賃金制度の改定をする際には、手当の見直しも必須です。

中途半端な固定残業・定額残業・みなし残業の問題点

就業規則に固定残業・定額残業・みなし残業制度について規程している運送会社は比較的多いです。

実際に、固定残業・定額残業・みなし残業の項目を給与明細に記載し、こうした残業代を支払っている会社も少なくありません。

しかし、上記の固定残業代が、何時間分の残業代であるのか不明確なケース、固定残業を超過した場合に超過分の残業代が支払われていないケースが少なくありません。こうしたケースでは、固定残業等による残業代の支払いが認められないだけでなく、割増賃金の基礎に含めなければならなくなり、高額の残業代請求を受ける原因なってしまいます。

残業代を支払っているつもりが、かえって、未払残業代が高額になる原因となっているのです。

また、高額の固定残業代を定めると、長時間の残業を強いる給与体系であると評価される場合もあります。月45時間以上の残業時間に相当する固定残業制は避けた方が良いでしょう。

以上のとおり、固定残業制等は適正に運用できない場合にリスクが高いことから、導入は慎重にするべきです。既に導入している運送会社は、裁判で争われた場合のリスクについて、弁護士等に相談するべきです。

残業代請求対策として完全歩合制

割増賃金の基礎で説明したとおり、基本給と手当については原則として割増賃金の基礎に含める必要があります。しかし、実際には、基本給だけを割増賃金の基礎としている会社が少なくありません。その場合、手当を含めた場合、残業代が想定以上に高額となります。

しかし、出来高制・歩合制の場合、割増率が0.25~となり「1」を乗じる必要がありません。そのため、残業時間が同じでも、出来高制・歩合制の場合には、残業代が5分の1程度になるのです。

したがって、手当を統廃合し、完全歩合制とした場合、同じ残業時間でも、残業代は大きく異なる結果となるのです。

特に中小の運送業では、形式上基本給が定められていても、実態としては、売上から燃料費等を控除した後の残額の30%程度を歩合給(形式上の基本給は歩合給に含まれる)とする完全歩合制を採用している会社が多いです。

就業規則には基本給を支給する旨記載され、給与明細にも「基本給 15万」などと記載さていることがあります。

実態として完全歩合制だが、完全歩合制は違法だという都市伝説を信じて、とりあえず基本給を設定しているのだと思われます。

完全歩合制は違法ではありません。ただ、労働基準法27条により「一定額の賃金の保障」をする必要があるだけです。

「一定額の賃金の保障」とは、①通常の賃金の60%+ ②最低賃金以上 です。

したがって、一定額の賃金を保障した完全歩合制であることを明確にすることで、割増率が0.25であることを明確にできます。

形式上の基本給が設定されており実質的には歩合制である運送会社、長年の経緯から多数の手当が支給されている運送会社、運転手のダラダラ残業に悩んでいる会社、長時間の残業がある中長距離運送会社については、完全歩合制を導入することを勧めています。

参考記事:歩合制(出来高払制)の適法性、残業代の計算方法(詳細版)

参考記事:運送業において完全歩合制・出来高払い制は違法なのか(簡略版)

完全歩合制導入のための就業規則改訂サポート

弊所では、2021年2月以降、セミナーを実施し、既に複数の運送会社様が、賃金制度を完全歩合制または一部歩合制に変更するお手伝いをさせて頂きました。

実態として完全歩合制であった会社について、就業規則や給与明細等を整備した事例もありますし、一部歩合制を完全歩合制に変更した事例、手当を統廃合して一部歩合制であることを明確にした事例がございます。

賃金制度の変更にあたっては、就業規則の変更が必要であり、就業規則を不利益に変更した場合には、労働者の同意が必要となります。

就業規則の変更についてトラブルにならないように、シミュレーションをした上で、従業員に丁寧に説明し、同意を得て賃金制度を進める必要があります。

また、リスクのある労働者に対する配慮も必要です。

完全歩合制に興味がある運送会社、現行の就業規則の定めに不安がある運送会社の方は、お気軽に弊所にご連絡下さい。

事前に就業規則、賃金台帳、労働時間が確認できる資料を送付して頂ければ、残業代請求リスクをシミュレーションした上で、賃金制度の変更の方向性について助言させて頂いています。

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