歩合制は違法なのか?
完全歩合制は違法か
完全歩合制は違法だと知り合いの経営者から言われました。その経営者は労働基準監督官から聞いたと言っています。本当にそうなのでしょうか。
完全歩合制は違法ではありません。
労働基準監督官が間違っていたということでしょうか。
歩合給(出来高)の場合、労働基準法27条が定める保障給を支払わなければなりません。
完全歩合制だからといって、賃金を全く支払わないということは許されないのです。
おそらく、労働基準監督官は、保障給も支払わないような歩合制は違法だと説明したのだと思われます。
労働基準法27条の保障給とは
保障給とは、どういう意味ですか。具体的にどれだけ支払う必要があるのでしょうか。
固定的給与と併せて通常の賃金の60%以上の貨金を保障する必要があります。また、最低賃金を上回る必要があります。
「通常の賃金の60%」として、60%に相当する基本給を設定しなければならないということでしょうか。
いいえ。違います。
労働基準法27条は、ドライバ―ごとに労働時間に応じて、各人の通常賃金の60%以上の賃金が保障されるようにすることを目的とした制度です。
60%以上の固定的給与(基本給等)を定めなければならないというものではありません。
「通常の賃金の60%」とは、具体的にどのように考えたらいいでしょうか。
「通常の賃金」とは、原則として、ドライバ―の歩合給の算定期問における通常の労働時間(時間外労働及び休日労慟の時間を含む。)に勤務した場合に得られると想定される賃金額をいいます。
「通常の賃金の60%」の具体的な計算方法について、通達は、過去3か月の賃金総額を当該期間の総労働時間数で割って得た金額の60%以上とすることが認められています。
完全歩合制に不安を感じる従業員がいる場合や制度変更して完全歩合制を導入するような場合には、上記を上回る具体的な金額を保障給として明示することも検討すべきでしょう。
ドライバ―側の事情の賃金減少と保障給
歩合制の場合、ドライバ―が仕事をしていなくても、保障給を支払う必要があるのですか。
ドライバーが仕事をしない場合には、労働基準法27条の保障給を支払う義務はありません。
同法27条が「出来高払制の保障給」を要求するのは、ドライバ―の責にもとづかない事由によって仕事が少なくなり、賃金が極端に低額になる場合における最低保障給を要求しているからです。ドライバ―が仕事をしない場合にまで保障する必要はありません。
累進歩合制
累進歩合制は違法か
歩合制を導入する際に、保障給以外に注意すべき点はありますか。
運送業のドライバ―については、累進歩合制は禁止されています。
累進歩合制とは
どのような制度が累進歩合制にあたるのでしょうか。
累進歩合給制は、運賃収入等をその高低に応じて数階級に区分し、階級区分の上昇に応じ逓増する歩率を運賃収入等に乗じて歩合給を算定する方式です。
ポイントは、「数階級に区分し」と「階級区分に応じて」という点です。
売上等を基準に階級を定め、その階級に応じて賃金を定めることが許されないのです。
単純に、売上に歩合率を乗じて歩合給を支給するような制度の場合、累進歩合制には当たりません。
違法な累進歩合制の例は以下のとおりです。
※ 「「累進歩合制度」は廃止しましょう。」より引用
歩合給の割増賃金の計算方法
歩合制(出来高制)の場合、割増賃金(残業代)はどのように計算したらいいのでしょうか。
まず、歩合制(出来高制)の場合の割増賃金の基礎についてです。
通常の割増賃金の基礎は、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間あたりの賃金額」です。月給制の場合、各種手当も含めた月給を、1か月当たりの所定労働時間で割って1時間当たりの賃金額を計算します。
これに対し、歩合制(出来高払制)の場合の割増賃金の基礎は、出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額です。
割増賃金の基礎=歩合給(出来高給)÷総労働時間
割増率はどうなるのですか。歩合制以外の一般的な割増率と同じですか。
異なります。
一般に残業代を計算する際には、割増賃金の基礎に125%(休日労働の場合135%)を乗じて計算します。
しかし、歩合制(出来高制)の場合、時間外労働について25%、休日労働について35%の割増率を乗じて計算することになります。
結局、歩合制(出来高制)の場合、どのように残業代を計算したらいいのですか。
(歩合給(出来高給)÷総労働時間)×割増率(25%~)×残業時間
上記で計算することになります。
なるほど。
残業時間が同じであっても、歩合制の場合、計算方法が異なるため、結果として残業代が少なくなるということですか。
そのとおりです。歩合制(出来高制)の場合には、時間外労働が、歩合(出来高)の増額に貢献していると考えて、割増率1.25のうちの係数1の部分を除外しているため、残業代が結果として少なくなります。
完全歩合制のハローワークの求人
完全歩合制の場合、ハローワークで求人できますか。
雇用契約の完全歩合制は違法な制度ではありませんから、求人することができます。ただし、請負契約の求人はできません。
求人する際に、基本給を記載する項目があるのですが、どうしたらいいですか。
現在のハローワークの求人システム上、基本給の項目が設定されています。
そのため、この欄には、最低限保証している給与額(労基法27条に基づく保障給)の金額を記載することになります。
システム上の制限から求人の条件を記載する際に工夫しなければならないのです。
実際に基本給を設定しているわけではないのに、「基本給」欄に金額を記載するのは抵抗があります。
そうですね。本来望ましいことではありません。
しかし、ハローワークの現在のシステム上、他に方法がないようです。
応募を受けて面接する際には、完全歩合制であり、基本給欄に記載されているのは保障給であることなど、賃金制度についてよく説明し、労働条件通知書兼雇用契約書を提示した上で、雇用契約する必要があります。
歩合制の場合の最低賃金の計算方法
一部歩合制を導入している場合、最低賃金はどのように計算すればいいのですか。
基本給と歩合給部分それぞれが最低賃金を上回る必要があるのでしょうか。
基本給と歩合給の時間あたりの賃金それぞれが最低賃金を上回るように賃金を設定する必要はありません。
基本給の歩合給の時間当たりの賃金額を合計した金額が、最低賃金を上回っていれば足ります。
完全歩合制の場合は、どのように計算したらいいのでしょうか。
完全歩合制の場合、歩合給の総額を当月の総労働時間で割って計算することになります。
月給制の場合、月給を1か月平均所定労働時間で割って計算しますが、平均所定労働時間ではなく、実際に働いた総労働時間で割って時給を算出することが必要ですので、注意してください。
一部歩合の場合の時間あたりの賃金(時間額)の具体的な計算方法を教えてください。
①【月給制】
月給制の基本給については、次の計算式で求めます。
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
②【歩合制・出来高制】
歩合制・出来高制については、次の計算式で求めます。
歩合給・出来高給の総額÷当該月の総労働時間数
一部歩合の場合には、上記①と②の合計額が、最低賃金を上回っていればよいわけです。
一部歩合制を導入している中・長距離運行を主体とする運送会社さんで、最低賃金を下回るような賃金体系になっていることは通常ないと思われますが、念のために確認しましょう。
その他の計算方法は、厚生労働省の「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」が参考になります。
歩合制の場合の有給休暇手当の計算方法
歩合制の場合も有給休暇は取得できるのですか。
もちろん、歩合制・出来高制の場合も有給休暇制度があり、申請があれば原則として認めなければなりません。
歩合制の場合の有給休暇手当の計算方法を教えてください。
年次有給休暇手当(賃金)の計算方法は次の3つあります。
①と③は就業規則に定めれば足りますが、②の場合は労働組合または労働者の過半数の代表者との書面による協定が必要です。
それぞれ簡単に解説します。
- 平均賃金
- 健康保険法の標準報酬月額の30分の1に相当する金額
- 通常の賃金
平均賃金(労基法39条9項)
事由の発生した日以前3か月間に、労働者に支払った賃金の総額を、その期間の総日数(就労日数ではなく、暦日数)で割った金額です。
ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められており労働日数が少ない場合など、総額を労働日数で割った額の6割に当たる額の方が高い場合はその額を適用します。
詳細は、厚生労働省の解説(平均賃金の計算方法)PDFを参照してください。
健康保険法の標準報酬月額の30分の1に相当する金額
健康保険法の標準報酬月額の30分の1に相当する金額です。詳細の説明は不要でしょう。
この場合、書面による協定が必要です。
通常の賃金(労基法25条1項6号)
労働基準法施行規則25条1項6号には次のとおり記載されています。
「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額」
要するに次の計算式となります。
(出来高払・歩合制の賃金の総額 ÷ 総労働時間)×1日平均所定労働時間数
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関連条文・文献
労働基準法抜粋
(出来高払制の保障給)
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
労働基準法施行規則
第十九条 法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。
一 時間によつて定められた賃金については、その金額
二 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額
三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額
四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額
五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額
② 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす。
参考になる文献・サイト
「累進歩合制度」は廃止しましょう! – 厚生労働省 PDFファイル
賃金 (賃金引上げ、労働生産性向上) 厚生労働省の最低賃金制度に関する説明
厚生労働省 「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
日本年金機構 随時改定
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